コミュニケーションデザインが変える地域モビリティの未来

プロダクトやサービスの価値は、対象のサイズを最適化し、それをユーザーへ適切に伝えることで劇的に向上する。
山形県鶴岡市と庄内交通が取り組んだ市内循環バスの再編は、ハードウェアの「サイズ設計」と、住民に寄り添う「コミュニケーションデザイン」の融合により、低迷していた公共交通を再生した見事な一例である。

従来の大型バスは、日本の地方都市特有の狭い生活道路への進入が難しく、本当に移動手段を必要とする高齢者の多い住宅街をカバーできないという構造的な課題を抱えていた。
そこで行われたのが、運転手を含めて10人乗りの車両へと舵を切る「ダウンサイジング(小型化)」というアプローチである。

この大胆なサイズ変更により、これまで進入不可能だった狭隘なエリアへのルート拡大が可能となり、結果として新たなバス停が20か所以上も増設された。
さらに、この再編では視覚的・機能的なデザインの工夫が細部まで施されている。
車体を鮮やかな黄色へと刷新したことで、従来の白基調の車両で頻発していた「介護車両との誤認」をスマートに解決し、街なかでの視認性を飛躍的に高めた。
また、コンパクトな車内でありながら、降車ボタンやデジタル料金表といった大型バスと共通の「バスとしての記号」をあえてそのまま配置している。

これにより、利用者に「小さくても間違いなく信頼できる路線バスである」という安心感をもたらす認知デザインを成立させた。
しかし、どれほど優れたプロダクトをデザインしても、ユーザーに届かなければ意味がない。

ここで特筆すべきは、新体制のバスを地域に根付かせるために展開された泥臭くも緻密なコミュニケーションデザインである。
導入初期にはバス停周辺の住宅への丁寧なポスティングを徹底したほか、高齢者が集まる体操教室、町内会、さらには学校などへ関係者が直接足を運び、対面での説明を重ねた。
単に時刻表を配るだけでなく、地域連携ICカード「cherica(チェリカ)」の利用方法や実際の乗り方を教える「バスの乗り方教室」という体験型のワークショップをデザインしたことで、新しい移動手段への心理的ハードルを完全に取り除いたのである。

形や大きさを一律に固定せず、ユーザーの生活環境に合わせて最適化する。
そして、その変化を届けるための双方向のコミュニケーションを設計する。
この包括的なリデザインこそが、利用者数を約5倍に押し上げ、さらには中高年や女性が「自分でも運転できるかもしれない」と応募を増やすという運転手不足解消の波及効果まで生み出した成功の本質である。